幅員5.5m未満をゆく

自転車とサイクリングの日記です。

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ツーリング部品・用品について

ツーリングが盛んだった1980年代、NewCycling誌で3号(1981年8月号~10月号)に渡って「ツーリング部品・用品について」という座談会が記事になっていました。
ツーリングは十人十色(ここでは8人ですが)。様々な楽しみかたがありますので、偏らないようなユーザを集めて激論が交わされています。
現在は2021年ですから41年前です。改めて未来の視点から読み返したらとても面白かったです。


大前提として、ここではツーリングとはレース以外ということです。


ツーリング部品とは?

瀬尾氏:レースに不必要なものはツーリング部品ですね。… たとえば泥除けだとか …

山本氏:バカチョンカメラがおもしろくないのと同じで、たとえば変速機でも使い方によって楽しみ方があっていいんじゃないか …

御子柴氏:(レース用の)部品を使って僕のやりたいサイクリング用の自転車を作ると、おもしろいのができるな …


よくツーリング派の人からは「ツーリング部品が無い」と聞きますが、レース以外と考えるとたくさんありますね。
車のマニュアルトランスミッションのように操る楽しみを自転車に求める人も多いことでしょう。レースは勝つためにデュラエースを選ぶのは当然でしょうけれどね。この当時だとカンパですが。
御子柴氏は確かチューブラータイヤにフラットバー、シングルチェーンリングの軽そうな自転車だったように記憶しています(間違っていたらすみません)。伝統的なツーリング車に拘らないようで、僕と通ずる考え方かもしれません。


ツーリングに要求されるものは何か?

竹本氏:(壊れて)走ってこれなくなっちゃうというのは、ツーリング部品としては失格。
自転車は旅の道具 … できたら自転車にあまり手をかけずに旅を楽しみたい。

瀬尾氏:いじるから壊れるんですよね。

御子柴氏:ツーリングの場合には、互換性がかなり必要じゃないかという気がします。


竹本氏は旅をメカよりも重視するタイプのようです。今もこうした人は良く走っていて舶来品ではなくシマノを選ぶことが多いです。
昔の部品は良く壊れる話しを聞きましたし、実際に自分でもツーリング中に壊れたことがありました。整備不良なこともありましたが、部品の強度や精度が低かったのでしょうか。今の部品は壊れることは殆どありませんね。
互換性はいじりたい人にとっては重要ですね。昔も今も変わっていません (^^;

現在ツーリングに使われているものは?

竹本氏:TAを使い、サンプレを使い、イデアルを使い、そしてチネリを使い … 十肥ひとからげみたい。

山本氏:カバンとか靴とか(ツーリング用は)随分残っている。

瀬尾氏:レースにはこんなの使えないというのがあったら、案外サイクリストに受けるんじゃないか。


十肥ひとからげ(じっぱひとからげ)、色んな種類の部品をより好んで使うという意味らしいです。僕はこのタイプですね (^^; 現在のツーリストで古典派はこのタイプではなく、時代を意識している人が多いようです。
バッグやシューズは今でも残っています。使い易いかどうかは人それぞれですが、あまり困らないと思います。


チェンジのキャパシティーとギヤ比の問題点

瀬尾氏:ツーリングにしようというと、とにかくロングケージにすればいいみたいな …

御子柴氏:何もあそこまで大きなギヤを使って、ワイドにしてやる必要もないんじゃないかと言ってあげたくなる。


現代のフロントシングルギヤ、リヤ12段、トップ11T、ロー42T、これらを見たらどう思うことでしょう。こんなになるとは数年前の僕らも思っていませんでしたね (^^;


ツーリング用のシューズを考えてほしい

山本氏:底が歩けるようなシステムになっていない。ああいうものをツーリングとレーシングと分けて売っているのは問題がある。… ツーリングは多種多様なのでそれに対応する必要がある。


シマノがやってくれました。SPDというビンディングシステムは競技用として生まれましたが、ツーリングにも最適でシューズも豊富です。走って良し、歩いて良し。ファストラン向けにはつるんとしたソール、ツーリング向けには少し溝があるソール、山岳向けにはビブラムソールにハイカット。

 

ツーリングとチューブラーそして実際のこと

御子柴氏:なんと言っても(チューブラーは)軽いのことがいい。泥除けは付けていません。

山本氏:自転車全体のイメージから言って(泥除けは)あるべきだと思っています。

編集長:自転車は公道を走るわけだから、あまりに汚らしい恰好はよくないんじゃないか。(←泥除け無しで雨で濡れて)

竹本氏:泥除けなしで走っていて雲行きが怪しくなってきた場合に切迫感を感じませんか?


面白いですね、この辺から個々の違いから意見が飛び交って議論が始まってきました (^^)

編集長:(泥除けが)いるかいらないかは別として、泥除けで新しいことが考えるかどうか。泥除けは今のままでいいのか。

御子柴氏:布とか。雪が詰まって進めなくなっちゃう。ステイが邪魔。


後に御子柴氏はビニールでダウンチューブからBB下を回してシートチューブまでの泥除けを作りましたね。実は僕もこれを真似て作って使っていました (^^)
すみません認識違い。これは別の方でした。

山本氏:自転車をパッと見たとき、泥除けがあったほうがはるかにバランスがいい。細いタイヤ用のいい泥除けが出てきていいんじゃないか。

竹本氏:ステイをネジ止めじゃなくダルマを接着すれば内側になにも出なくなって泥詰まりも解決するんじゃないかと思う。

御子柴氏:雪が詰まって、日が暮れて、足が冷たいのに我慢して、棒きれで雪を取るというのは、たまらないんですよね。

瀬尾氏:泥除けを外してしまえばいいんだよね。


いろんなタイプの人が集まったから斬新な意見があって今見ても新鮮ですね。泥除けはツーリストにとって重要ですからかなり白熱していました。
細い泥除けは本所が作ってくれていますし、かなり太い48mmくらいのタイヤ用のもあります。着脱式というとMTB(この時代はMTBは生まれて間がなく普及前です)用にありますし、ロード用にもありますね。文中では需要が少ないだろうとも言っていますが、ちゃんと具現化されています。



回転部にはシールドのベアリングがほしい

瀬尾氏:ハブは二輪車のように、簡単に外したいですね。ネットを取ってシャフトを抜けば落ちちゃうというやつね。
二輪なんていうのは、玉押しがある車なんてないからね。
(シールドベアリングが)高級だと思っているのは自転車関係者だけね。

御子柴氏:ああいうの(テーパーローラーベアリング、シールドベアリング)を使えば、ヘッドを抜くのがかなり簡単になるような気がする。


現在、ハブ軸はスルーアクスル、カップ&コーンだったベアリングはほぼシールドベアリングになりましたね。ヘッドもAヘッド方式が大多数になりました。41年前の人達は予言していた感じです。

 

ツーリングでの輪行車の問題

千束氏:… 泥よけにしても、輪行する時に不都合があるわけしょう。そういうところでは、もうちょっと開拓の余地が製品の上であるかもしれない。

御子柴氏:伊豆にロードで輪行して行ったんですけれども、ものすごい楽なんですよね。どうしてこんなに楽かと考えたら、泥よけがないからなんですよ。

山本氏:僕らにすれば、泥よけを付けたり外したりするのに、どれだけの時間的な差があるか…


今ではロードの輪行がバンバン行われていますね。二人の対決(?)は御子柴氏に軍配が上がったということです。趣味人としてどちらが良いか悪いかではなく、ロードで輪行することでサイクリングの裾野が確実に広がったと思います。


トランスミッションについて

編集長:たとえばチェンは、歯付ベルトにすれば、油が要らないから、いいんじゃなかろうか。

千束氏:外装変速機じゃなけらばいいんだよね。

編集長:無段変速みたいなのができるのではなかろうかという気がしているわけ。


電動アシストですよ。変速機はついていますがオマケみたいなものでしょう。脚の力に応じてギュイーンです。これはさすがに当時の人達には思い浮かばなかったようですね。


バッグの根本的問題

瀬尾氏:バッグにキャリヤがくっついているべきで、自転車にくっついているものじゃないんじゃないの、

御子柴氏:ツーリング車というと、バッグなしの写真を撮るわけですけれども、あれがおかしいんじゃないかと思うんです。

… バッグを一緒にして撮らないと、意味をなさないんじゃないですか。


今の流行りはキャリヤ無しです (^^; フレームに直接付けるバイクパッキング。旧来のツーリング用のバッグは注文して製作してくれるところも出てきて、バッグ類は選択に困りませんね。



もっとツーリングの靴を考えた方が …

千束氏:(歩くには)当然曲がらなければいならない。ペダルを踏むには曲がらないほうがいい。

竹本氏:靴とペダルのコンビネーションで開発して欲しいという気がするんですよね。

御子柴氏:林道を走るときの靴が一番困りますね。何をはいていったらいいかわからないですものね。


再び靴が話題に上がりました。確かに当時はツーリング用の靴の決定版がありませんでした。
その後、自転車意外ですがアシックスのガンドレというのが発売されて、ソールがそこそこ硬くてペダリングに具合がよかったようです。
僕はシマノSPD仕様のペダルとシューズがツーリングにいいと思っていますが、トウクリップ派にも良いツーリングシューズが発売されていますね。またフットサル用のシューズ等、意業界の製品を選ぶこともできます。

 

決定版がないツーリングのシューズとウェア

御子柴氏:いろいろな人が見て、ああ、あの人達は自転車に乗っているんだなというスタイルができないかなと思うんです。
… そのポイントがたぶん靴なんじゃないかと思うんです。

山本氏:テニスとか、他のスポーツみたいに、こういうものがスタンダードなんですという植え込み方みたいのができないんですかね。

御子柴氏:短パンとニッカーの中間が欲しいんですよね。

山本氏:あらゆるスポーツを見ていて、サイクリングぐらいだらしがないスポーツはないんじゃないかと思うの。

 

ロードバイクが市民権を得たので「ロードのスタイル=自転車の人」という印象はできましたね。ツーリングの人はニッカーを履く人が多いですが、絶対数が少ないから自転車の人とは見てもらえません。ツーリングのとらえ方は十人十色なので、ウェアも統一されないのも問題なんでしょうね。

 

 

特殊なサイクリングを楽しむためのもの

永松氏:(山下りでは)ブレーキ事態はほぼ満足しているんです。ただ、タイヤと路面の摩擦が足りないんで、… 最近アメリカで出てきたマウンテンバイクのタイヤのもっと軽いのがあれば、ほぼ満足できると思います。

編集長:最終的には、下りのときには別の自転車を使うのがいいということになっちゃうな。

永松氏:ある程度の旅の雰囲気を残しておきたいんで、… ツーリングの雰囲気を味わいたいと思っています。


編集長:(泥づまり)に対してはどういうものがということがありますか。

永松氏:さしつかえなかったら外しちゃえばいいわけです。
… 泥よけに詰まるところは、ブレーキのところが多いわけですよね。そういうときにちょっと穴をあけておくと、凍る場合は外からつついて落とせるんです。
…(雪の場合)ブレーキでは、どうしてもキャリパーブレーキ以外のブレーキがあったらいいと思いますね。


この時代はMTBがまだ普及していなかったので、自転車本体も部品類も試行錯誤が多かったです。永松氏は山岳サイクリング研究会を立ち上げて情報共有や発信に努めていました。山中だけでなく冬季のサイクリングには役立つ情報が多かったですね。

 

明るいライトが欲しい

永松氏:うんと明るくて軽いライトがあったらいいと思いますね。
… オートバイくらい明るいのが欲しいですね。

御子柴氏:バッテリーランプというのは、光を集めてみる場合はいいんですけれども、直前の情報が欲しいんですよ。

永松氏:もっとフラットなね。

御子柴氏:それが足りないんです。それはダイナモじゃないと。


この当時のライトはダイナモが主流で補助で乾電池のバッテリーライトでしたね。今は充電式になり、軽量なリチウムイオン充電池とLEDで明るいライトが手に入るようになりました。とても大きな進化ですよね。ダイナモはハブに内蔵して自給できてしかも回転抵抗も僅か。ツーリング用のライトとしては決定版でしょう。

 

<司会後記>
 予期してはいたが、ツーリングの部品には、やはり決定版というものが出て来ない。各人がおのおの自分の好む所、考えによって実行しているだけで、その方向、実際は多岐にわたり、最大公約数のようなものは、しぼれないのがツーリングというものであろうと思われる。
 しかし、サイクリストがそれぞれ主張するものは、必ずそれに同感し、同調する層はある筈で、そういった細かく多岐にわたるものの全体が、ツーリング部品という一つのジャンルを形成するもんと思われる。そうなると、ますます少量多品種になって、工業製品としては少なくとも現在は成立しないではないだろうか。


41年経って、人は変わっていないなと感じました。旅を重視する人、自転車のスタイルを重視する人、新しい物を積極的に取り入れる人、舗装を多く走る人、林道が好きな人、山の中の道が好きな人。いろいろです。
製品や用品は激的に変わり入手し易くなりました。レース以外の部品がツーリング部品と捉えると、凄く多くの製品が世の中に生まれています。ここで上げられていたものがほぼ解決していると言っていいでしょう。
ただ、ウェアに関することは変わっていませんね。これは人が変わっていないからでしょう。これがサイクルツーリストだっていうスタイルは、この先も無いのかもしれません。



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以下、NewCycling誌の全文です。