幅員5.5m未満をゆく

自転車とサイクリングの日記です。

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内装変速機に魅せられて


◆ 1.INTER8

趣味としての自転車パーツで最も人気のあるのがディレイラー、いわゆる変速機であることは誰もが認めることでしょう。
今日の変速機は幾多の歴史を経てコンポーネント化され、関連パーツと共に動作することで理想的な変速性能を実現しています。
一般的なスポーツ用自転車には外装変速機が使われているのはご承知の通り。多段ギヤ、チェーン、変速機。機能だけでなく様々なデザインがあり、コレクターでなくともこれらに機械的な美しさを感じる人は多いでしょう。

しかし、ある時私は内装変速機というものに出会いました。正確に言うならば、多段変速な内装変速機に出会ったというべきでしょうか。
日常的に大衆に使われる自転車には内装変速機が使われているものがあります。いわゆるママチャリです。3段くらいのものが多いでしょうか。この為あまり気にとめていなかったのですが、調べてみるとシマノがいくつもの製品をリリースしています。3段、7段、そして8段(最近は11段も発売されました)。それぞれハブがINTER3, INTER7, INTER8、ラインナップはNexusまたはALFINEという製品です。

8段…、もしかして僕の走り方はこれでカバーできるのではないだろうか。

愛用している自転車のタイプはパスハンターです。市街地走行を快走し、農村部ではのんびりと、そして高台の集落を経て山道の峠へ至る。そんな走り方を楽しんでいます。
農村では石碑類や神社を巡るのも好きで、センターラインの無い道を好んで走っています。


◆ ギヤ比

8段で本当に私の走り方に合うのか、INTER8のギヤ比を調べました。ネット社会はこんな時にありがたさを感じます。減速比を見つけることができました。

1速 0.527
2速 0.644
3速 0.748
4速 0.851
5速 1.000
6速 1.223
7速 1.419
8速 1.615

外装変速機の場合は 前ギヤ÷後ギヤ=ギヤ比 としていますので、減速比では比較ができません。同じ条件にする必要があります。言葉では説明が難しいので結果の表をお見せします。

INTER8 (前35Tx後16Tの場合)
  減速比 ギヤ比
1速 0.527 1.153
2速 0.644 1.409
3速 0.748 1.636
4速 0.851 1.862
5速 1.000 2.188 (35÷16)
6速 1.223 2.675
7速 1.419 3.104
8速 1.615 3.533

今まで (前42Tx30T)
   後  42  30
1速 26 1.615 1.154
2速 23 1.826 1.304
3速 20 2.100 1.500
4速 18 2.333 1.667
5速 16 2.625 1.875
6速 14 3.000 2.143
7速 12 3.500 2.500

なんという偶然でしょう。今までのギヤ比とINTER8にした場合のギヤのは、ローとトップで殆ど同じにすることができました。
もちろんクロスレシオは望むべくもありませんが、スピード派でない私の走り方ではなんら問題ありません。
26HEホイールでINTER8の6速は95rpmで30km/h。平地の市街地快走はもっぱらこのギヤが目安です。上に2速残ってていますから下りでも事足ります。
ロー側は舗装路で勾配15%の上りをなんとかサドルに跨ったまま上れるギヤです。

ギヤの歯数は山を走ることを考慮して径の小さいものが欲しいです。
ALFINEのラインナップはリヤスプロケットの最小が18Tですが、一世代前のNexusに16TがありALFINEに装着可能でした。
これによってチェーンホイールは35Tが付けられます。しかしピスト用にもロード用にもMTB用にも存在しませんので、何度かお願いしたことのあるCT'sさんでオーダーすることにしました。
シフターもALFINEのラッピッドPlusではなく、Nexusのグリップシフトタイプにしました。数段飛びで一気にシフトダウンできるので、止まっていても変速できるINTER8の利点を生かすにはいいのです。

さぁ、ここまでくると頭の中は構想で一杯。INTER8をインストールすることを決意しました。


◆ 3.フレーム改良

本来ならばここでオーダーフレームとなりそうですが、まだINTER8には疑心暗鬼でしたので、既存のフレームの後ろ三角だけを改良することにしました。
後ろエンド幅は126mm。INTER8のオーバーロックナット寸法は135mm。無理矢理に広げて入れるには厳しいです。そしてINTER8のシフトワイヤーはチェーンステー下側から引きますので、アウターストッパーをチェーンステー上から下へ付け直す必要があります。
既存のフレームはCHERUBIM。10年以上前に今野仁氏に製作してもらったパスハンターです。そしてこれに手を加えるのは二代目の今野真一氏。期せずして親子二代の手によって作られることになりました。

ALFINEのラインナップにはチェーンテンショナーというのもあって、チェーンステーの長さが固定されていても、弛んだチェーンを張ってくれます。
しかし、せっかく外装変速機を取り去るのですからチェーンテンショナーは付けたくありません。代わりにロードエンドの調整範囲でカバーすることにしました。トラックエンドにしなかったのは、チェーンの伸びに(ホイールの後退)によってブレーキシューとリムの当り面にずれが生じないようにするためです。


◆ 4.ホイール組み

リムはMTB用の26HEサイズで32穴、MAVIC XM317のシルバーを選びました。440gという重さとリーズナブルな値段は懐に優しいです。
スポークは#15x#16のバテッドにしようと思ったのですが、フランジの大きなINTER8ではスポーク長が短くなり、バテッド部分が切られてしまうとのことでした。そのため#15プレーンとなりました。
ニップルはアルミ。体重58kgの私には問題ありません。

スポーク長はハブとリムの寸法が分かれば、インターネット上で算出してくれるサイトがあります。そしてスポーク長をオーダーできるお店もいくつかありますので困りませんでした。
INTER8はオチョコ量が少ないため算出したスポーク長さは左右で1mmほどの差しかありませんでした。このくらいであれば左右とも同じ長さで構わないでしょう。ツーリング先でスポーク折れに対応するにも長さが同じ方が都合がいいです。
組み方は4本組みのイタリアン(井上式)。本誌読者ならばスポークが折れ難い井上式が基本ですよね(しかし後述しますがスポーク折れが頻発することになりました)。

私がホイールを組む手順は少し変っています。最初に全てのスポークを綾取りしてしまいます。この時スポークの交差部分をセロテープで止めるのです。こうすると組むのも楽ですし、ハブのロゴマークとリムのロゴマークの位置合わせも容易なのです。是非お試しください。


◆ 5.実走

待つこと数ヶ月。オーダーしたチェーンホイールが出来上がり、ホイールを組み、ようやく出来上がったフレームを手にし、いざインストール。
それぞれのパーツが所定の位置にインストールされ、INTER8が我が物になりました。
(一号機:2008年冬)

まずは部屋の中でスタンドに自転車をセットした状態で変速を試みます。ドキドキします。構想から一年近く経ってようやく確かめることができるのです。
クランクを左手で回します。そしてシフターを右手で回します。

カチリ…  その瞬間左手にヌルリとした感色が伝わり変速が完了しました。

おおーっ、これが、これが内装変速機か。なんという素早やさ。
この瞬間、もう外装変速機には戻れないな、と思いました。

実走は感動の連続でした。変速フィーリングは今までに経験したことのないスムーズさです。内装変速機のことでよく言われているのは、クランクを止めていないと変速できないとか、クランクにトルクを掛けていると変速できないとか。しかしINTER8はクランクを止めていても、クランクを回していても変速できます。ヌルっと。
しかし、上り坂でかなり大きなトルクを掛けている場合は変速しないことがたまにあります。ダンシングで上っていても変速できますので、それ以上の場合でたまに変速しないという程度です。その場合には力を抜くか、1段戻してから変速し直すことになります。

一番の利点は変速が早いことです。
外装変速機の場合はギヤ比にもよりますが、変速が完了するまでにクランクをある程度回す必要があります。INTER8ではこの回す角度が非常に狭いです。クランクを少し動かしただけで変速が完了します。原理的に外装変速機では太刀打ちできない早さです。

二番目の利点はクランクを回さなくても変速できることです。
走行中に前方の信号が赤に変わったらシフトダウンする。そういった日常的な煩わしい動作から解放されます。事前にシフトダウンする場合でも、その時にクランクを回さなくていいというのは凄く楽なのです。
また、シフトダウンしたい時というのは減速したい時が多いです。減速中にクランクを回すのはペダルに力が入りませんからバランスを取り難くなります。クランクを回さなければ左右両方のペダルに体重をのせてバランスを取り易いのです。オフロード走行では特に重要なことです。

三番目の利点はすっきりシンプルな外観です。
見た目もそうですが、オフロード走行では邪魔になるものがありませんからぶつけて壊れるものもありません。草や枝が引っ掛かることも少ないですし雪道走行でももちろん有利です。

利点ばかりではなく、もちろん欠点がありあす。その一番は重さです。
INTER8単体で約1.5kgもあります。これがリヤハブの一箇所に集中していますので、自転車を持ち上げる時に感覚的な重さを感じます。ただホイールの中心部ですので走行にはあまり影響はありません。
しかし、自転車全体で見るとそれほど重量増ではありません。プラス500gほどです。
前後のディレイラーが無くなり、リヤスプロケットが無くなり、チェーンが短くなり、スポークが短くなり、チェーンホイールが一枚になり、フロントのシフターが無くなり。こんなにマイナスがあるのですから。

二番目の欠点はホイールの脱着が少し面倒です。
ハブシャフトがクイックレリーズではなくてロックナットになっていますから、外す手間と工具を余分に携行することになります。それと、私の場合はロードエンドにしましたのでチェーン引きがありません。チェーンを張るには手でホイールを引っ張りながらハブの位置を固定することになります。
しかし、パンクでもしない限りはホイールを外すことは無いでしょうから、大した問題ではありません。


◆ 6.スポーク折れ

3,000kmくらいで一本目が折れました。ツーリングの途中で予備を携行していませんでしたが、ニップル回しで触れを調整してその後のツーリングを楽しみました。
二本目はその数百キロ後。スポークは一度折れると続けて折れ始めると聞いていたので、フラットバーの中に入れて携行していました。
そしてここでも利点を見つけることになりました。スプロケット側が折れたのですが16Tという小さめのスプロケットのこともあり、何の面倒もなくスポークを交換することができたのです。

折れた個所はネック部分でしたのでハブフランジの穴を見ると当り面が変形していました。INTER8は#14スポーク用の穴径なのですが、#15を使っていて細い分穴へのフィットが良くなかったのかもしれません。かつての井上式組み方の記事を読み返してみたところ、フランジ穴とスポークの太さはピッタリがよく、ぶかぶかはダメといったことが書かれていました。耐久性のあるホイールにするには綾取りだけでなく、スポークの太さとフランジの穴にも注意しなければいけないことを身を持って体験しました。
その後ホイールを組み直したのですが、フランジ穴を細いヤスリで少し削ってスポークとの当たりを良くしたところ、20,000kmを越えてもスポーク折れは発生していません。


◆ 7.まとめ

INTER8仕様のパスハンターは大活躍で、毎週末100kmを越えるツーリングやパスハントを楽しんでいます。
実走を重ねることでINTER8の性能と耐久性への信頼が高まり、2010年には二号機となるフレームを細山製作所で作りました。
街中を快走し、農村部のアップダウンで小気味良い変速を楽しみ、山では水を得た魚の如く小道を分け進みます。
ディレイラーという部品としての美しさや存在感を楽しむことはなくなりましたが、これを捨てたことに後悔はしていません。

※本記事は NewCycling誌 2011年9月号 掲載のものです。